夜光に口付け colors of garden 6 忍者ブログ
「植木に口付け」・夜襲期間限定ブログ
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久しぶりのSS更新は(ほんますみません)、久しぶりの庭師パロです。

傘をさしている人物、というモチーフは情景的にも文章的にも好きなものの一つなのですが、うまく書けるかどうかは別の話です。

でも、ちょっと気に入った感じだったり。

いつもお粗末さまです。


葵は向日葵が似合うよね、ということで、次あたり向日葵を出したい。
そしてなかつは庭についてほとんど調べないまま、このシリーズを書いている。
一度死んだほうがよい。

DVD3巻、買いました。






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"colors of garden 6" 紫陽花に傘


「さすがにちょっと疲れたかな」
立ち上がってうんと伸びをすると、腰の骨がばきばきと鳴った。少し不安になるくらいの音だ。
伊波家の立派な庭だ、夏といえど、むしろ気温があがり植物がへばる夏だからこそ、しっかり手入れをしなければならない。枯れてしまった葉を取り去り、水をあげ、伸びた葉を整え、虫がついていないか確認する。
数日続いた猛暑のせいで、庭のところどころでへばる植物が増えていた。そこで葵は、当主の許可をもらって数時間早く伊波家に入り、植物の手入れを始めたのだった。運良く今日は雲が多く、さほど気温は上がっていない。空を見上げると灰色の雲が空一面を覆っている。気温ではないものを心配したほうがいいかもしれない。頬を撫でる風が生ぬるかった。しばらくその風を感じるだけに思考をとどめる。ふとその肌をなぞっていく感覚に記憶が蘇る。そうだ、この家に庭師として来たのも、こんな季節だった。あれからもう一年になるのか。
元々雇われていた庭師が腰を痛め、ちょうど代わりを探していたところに、途方にくれた自分が来た。ほとんど庭を手入れした経験がなかったにもかかわらず、この家の当主は自分を雇ってくれたのだ。元々花が好きだったから、それなりの知識を持っていたつもりでいたが、実際一対一で対面してみると、植物というのは案外繊細で、すぐへそを曲げたり弱ったりしてしまう。ただ知識だけで向き合うのではない、愛情を持って、真摯に触れることが必要だった。それがわかるまで数ヶ月かかった。伊波家当主は、まあみすぼらしくない程度の庭でいいと大雑把な意見を持っていたので、自分でもなんとかやっていくことができた。ありがたい話である。ここ2,3ヶ月で葵はようやく、自分が目指すべき庭の形を自分の中で定めていた。それを実現していくことが、伊波家に対する自分がすべきお礼であろう。
葵は場所を移動し、再び座り込んだ。
アジサイである。色は青。梅雨も明け、雨が少なくなってきたからか花の数は減ってきたものの、まだまだその青は健在であった。空の青とは違う、もっと悲しそうな青。
大きな葉にカタツムリが這った跡を発見する。よくありがちな、アジサイとカタツムリのいる景色を思い浮かべ、葵は柔らかく微笑した。もしそれを見て、伊波家の人間に四季を感じてもらえれば、いい。一緒に時間が流れる庭。それもいい。いつでも花、もしくは植物に関するきれいな景色が見れるようにしたい。ああ、妄想ばかりが膨らんでいく。あんなのもこんなのも、なんて夢見たって、自分の技術はたかが知れているのに。
枯れて茶色くなってしまった花を取り去っていると、葵の鼻の頭にぽつりと、何か当たる感覚があった。
「ああ・・・・・・とうとうきたか・・・・・・」
見上げると、灰色だったはずの空はほぼ黒と言っていい色になっており、そこから雨粒が次から次へと落ちてくるのが見えた。すぐ、葵の周りに黒い染みができていく。サァァァと静かな音が鼓膜を揺らした。心なしか、目の前のアジサイが元気を取り戻したように見えた。アジサイにこの雨はうれしいだろうが、葵にとってはそうでもない。何も考えず、ただ早くから作業を始めようと出てきてしまった葵は、無論、傘など持っていなかった。持っていても傘をさしながら作業ができるはずもない、邪魔なだけであるが、肌に張り付くシャツの感触が、少しだけ不快ではあった。
「ま、降らないよりは降るほうがいいしね」
恵みの雨、か。庭の植物にとってはこの雨は朗報に違いない。
葵は一度下げた顔を再び空に向けると、苦笑いを残して作業に戻った。
剪定ばさみを取り出す。
ふと、影が落ちた。葵の周囲が暗くなる。はて、とまたまた空に視線を移すと、視界に入ったのは傘だった。ぽたり、と葵の髪から滴が垂れる。首をそらして更に後ろを見ると、無表情で傘をさす伊波葛の姿を下から見上げることができた。紺色の和服。灰色の和傘。剪定ばさみを持った手がぴくりと、震えた。
「坊ちゃん」
「風邪をひく」
彼はこちらを見ず、まっすぐ前を見据えたまま、葵の上に傘をさして言った。ちょうど二人入れるくらいの傘である。僅か足をずらすと、背中が彼の足に当たった。慌てて元の体勢に戻った。
「続けろ」
声音は真剣で言う内容は命令形であるにもかかわらず、まったく威圧感のない、むしろどこか気遣うようなそれに、葵はふっと口元を歪め、剪定ばさみをぱちりと言わせた。
「ありがとうございます」
「ただ、花を見ているだけだ」
ひねくれた返答に葵はどう答えていいかわからず、結局何も言葉を返さずに、目の前にちょうどきれいに咲いていたあじさいを、選定ばさみで切り取ると、それをつまんでくるくる回した。

「今日は坊ちゃんの部屋にアジサイを持っていきましょうか」



紫陽花の花言葉:
辛抱強い愛情 移り気 など。

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