「植木に口付け」・夜襲期間限定ブログ
バイト前に書き逃げ!
ぎゃばばば twitterでせまじ様がすってきな設定をつぶやいていらっしゃったので、思わずたぎってしまいました・・・・・・。
庭師葵と次男葛(次男って・・・)です。
時代は大正あたりのパラレルです。
妄想過多です。私だけが幸せです。
つづきからどうぞ。
せまじ様、本当にすいません・・・・・・。
これでよいのかしら・・・・・・お気に召さなかったらすいません・・・・・・。
っていうか、最初のSSがパラレルってどういうことなの・・・・・・。帰ったら普通の葵葛書きたい!
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"colors of garden" 1・立てば芍薬
「んー」
三好葵は剪定ばさみを握った手をまっすぐ伸ばし、はさみの向こうに自分の整えた庭を見た。
「何か、違うんだよな」
十秒ほど考えた後で葵は剪定ばさみを植木に滑らせ、僅かな葉を切り落とした。大して形が変わったようには見えないが、葵自身は満足したらしく笑みを浮かべて数度頷く。初夏の陽気は首筋と額に汗をにじませる。首にかけていたタオルで額をぬぐうと、葵は表情を引き締め、もう一度庭を見渡した。
三好葵が庭師として雇われているこの伊波家の歴史は古く、戦国時代はそこそこの石持ち大名だったらしい。その後、幕府に仕え、明治維新では賊軍として一度滅亡の危機に陥ったものの、当時の主が人徳と同時に力も持つ人間だったらしく、士族ではなく華族として家は存続した。そのあたりの詳しい事情を葵は聞かされていない。ただの庭師に聞かせる話でもないだろう。
葵はただ、武士としての血をこの庭に表したいのだ。厳かで、だけれど気品の漂う庭を作りたかった。
「嗚呼、ご苦労」
ふと背中のほうから声が聞こえて葵は振り向いた。縁側に立っていたのは当主であった。切れ長の眼をしているが、その口元に浮かぶ笑みは優しい。
現在、伊波男爵家は軍の有力幹部である彼とその妻、男三人女一人の子どもたちで成り立っている。
葵の仕事は、武家屋敷のように立派な伊波家の屋敷の庭を、整えること。
彼は懐に忍ばせていた懐中時計を見ると、その時間を読み上げた。葵が思っていたより随分遅い時間になっていた。今日は何か気に食わなくて、いつもより念入りに手入れしていたせいだろうか。まさかそんなに時間が経っているとは思わなかった。
「随分長くかかったようだね」
「申し訳、ございません」
がばっと頭を下げると、地面に汗が垂れ、黒いしみを作った。
「いいんだいいんだ。ただ、そこまで丁寧に手入れしてくれずともうちは無骨なものばかりだからね、見た目が整っていればそれでいい」
それは、わかっている。
ここまでこの庭に執着する必要は無いのだ。ただ葵は、自分の仕事に誇りを持っていたし、自分を雇ってくれる伊波家に感謝を示す方法を、これしか知らないのだ。手を抜きたくなかった。
例え見る人がいなくとも。
伊波家にふさわしい庭を造ることができればそれでよかった。
その中心である彼は、葵に軽く会釈をするとまっすぐ背筋を伸ばしたまま縁側から離れた。自分が表したいのはあの強さである。
「・・・・・・さて」
一呼吸置いて、葵は仕事を再開した。といっても庭の手入れはこれで終了、あとはこまごまとした雑務だけだ。あまりに殺風景だから、と奥様に言われて飾られている子どもたちの部屋の花を取り替える。ゴミ捨て。など。
葵は縁側から屋敷に上がった。屋敷はしんとしている。途中通った部屋にかけられた時計は、もう午後四時をすぎていた。まずい。葵は用意した花を片手に目的の部屋に急いだ。部屋の位置的に、まずは長女の部屋から。次に長男、そして三男。最後に次男の部屋である。昨日とほとんど姿を変えていない花を替え、慌てて出る。それぞれ習い事や勉強に行っているため、部屋にはいない。それが四時までなのである。帰ってくるまでに花を替えなければならないのだが――間に合うか。
運良く、次男の部屋にはまだ誰もいなかった。ほっと息をついて窓近くの花瓶に近づく。時刻は四時二十分。
薄いガラスを扱うように、慎重な手つきで花を扱う。
今日の花は芍薬(シャクヤク)だ。
その大胆に咲き誇る花が良く見えるように微調整を繰り返し、満足したところで古い花を回収し、葵はくるりと振り向いた。
次男が立っていた。
「あ」
まだ扉に手をかけたままの状態で、そこに立っていた。
難しそうな本を右側に抱え、緩み一つないきっちりとした服装、髪型で彼はそこに立っていた。
伊波家次男――伊波葛。
父に似た切れ長の瞳がじっと葵を見つめている。葵はともかく頭を下げた。
「も、申し訳ございません、坊ちゃん。今出て行きますので」
「お前が」
青ざめた顔を上げると、葛は何を思っているのかわからない、無抑揚な声を発した。何も返すことができず、葛の言葉の続きを待つ。葛は葵の向こう、窓のほうに視線を一瞬飛ばし、僅かに眼を細めた。
「替えていたのか」
はじめ、何のことを言っているのかわからなかった。葵はそれをそのまま顔に出してしまい、数秒の間ぼんやりとしていたが、葛が花のことを指しているのだと気づいてまた深く頭を垂れた。こんな男に部屋に入られているのか、と思われたに違いない。謝ろうと葵が息を吸い込むと、頭上から葛の声が降った。
「ありがとう」
吸った息は、吐き出されぬまま、固まった。
「毎日、綺麗な花を」
嗚呼、この人は。
花を見てくれていたのか。
誰にも何も言われたことがなかった。きっと彼らにとって花は背景でしかないのだろうと思った。それよりも気にすべきことは山ほどあるし、気にして欲しいとも思っていない。それでも、嬉しかった。
おそるおそる顔を上げると、葛は整ったその顔にほんの僅か、歪みを生じさせていた。
それが微笑だと気付くのに、少し時間がかかった。それほどまでに微少な歪みであったが、彼は微笑んでいた。
三好葵がはじめて見た、伊波葛の笑顔であった。
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