「植木に口付け」・夜襲期間限定ブログ
2話目。
設定的には、写真館に住み始めて結構すぐな感じです。
この話の後、心を許して葵に触れることを許し、葵相手にアーッな展開もおkになった葛たん、という裏設定。
自分の体がうんにゃらされることに関して、達観してしまった受けが私は好きです。(キリッ
ただ受けキャラをGOKANしたいだけかもしれませんがね! あっ、っていうかそうなんでしょうね! GOKANネタを書きたいからそうしているだけでしょうね!
ビッチじゃないんです、違うんです。
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"大事な何かを掴もうとして"
嗚呼、今のは夢かと気付くのに数秒を要した。まだ誰か自分に触れているのではないか、その手で犯されるのではないかと、頭のどこかがおびえていた。目を開け、現実を取り入れる。つうと首を汗が伝って、葛はびくりと体を震わせた。上半身を起こし、顔を手で覆って大きく息をつく。僅かに息が乱れていた。シーツの表面をさっと撫でると、ひどく湿っていた。そういえば、服も背中側がぐっしょりと濡れている気がする。額の汗をぬぐってベッドから出ると、葛は布団を下ろしてシーツを乱暴に剥ぎ取った。こんなものを下に敷いて寝たくはなかった。自分の汗以外の、嫌な何かが染み付いている気がした。あの、人間臭い、生臭い何かが。
ぐるぐるに丸めたシーツを体の横に抱え、部屋を出る。
時間は確認しなかったが、真夜中だろう。どこもひっそりと静まり返って、人の気配を感じさせない。階段を下りる足音さえも闇に吸い込まれてしまいそうな気がする。自分の存在が夜の中に溶けていくようで嫌だ。
階段を降りてすぐ左の洗面所のドアを開け、洗濯物をためているかごにシーツを入れた。もう一枚、シーツはあっただろうかと考える。確かまだ残っていたはずだが、どこにしまっただろう。考えてすぐ、一日くらいシーツがなくても眠れるだろうと、諦めた。明日、朝になったら考えよう。今は余計なことを考えたくなかった。思考をうまく止める。落ちてきた前髪数本をかきあげて階段に再び足をかける。あの夢は全て忘れて、また明日から、変わりない日常を迎えよう。あの頃の傷はもう、ふさがったはずだ。
日常?
この場にいることが、日常?
違う傷がうずいた。まだふさがっていないことは明白な傷だった。嗚呼、考えてはいけない。うまく思考を切らねばならない。いつもはうまくできるはずのそれが、あの夢のせいか、失敗に終わる。何も考えず、自分のことなど考えず、目の前の現実を機械的に処理してしまえば楽なのに。気付けば終わっている、そんな夢のような展開を今の自分は望んでいるのに。眠ってしまえば大丈夫だろうか。だが弱い自分が、再びあの夢を見るのではないかと恐れていた。意識でも失いたいものだ。
背後の空白が急に怖くなった。誰もいないその空間が、何故だかひどく怖くなった。足の動きが少し早まる。何をおびえているのだろう。現実か。
階段を上りきり、そこにある広い空間を認識する。光を取り入れるため大きく採られた窓の向こうには陰鬱な夜の闇が充満していた。
その時、急に、ここは上海であって日本ではなく、身分を偽るための写真館であって軍部ではないという事実が、葛を打ちのめした。それはふいに訪れて、葛を再起不能に打ちのめした。たった一発で。
ここは、どこなんだ。
どうしてここにいるんだ。
いつの間に、こんなところに来てしまったんだ。
葛は階段のすぐ横の壁にトッと背中を預けると、そのままずるずると座り込んだ。自分の境界がよくわからない。
眠ってしまえば楽なのに、とつぶやいた。
意識は覚醒状態から動こうとしない。
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