「植木に口付け」・夜襲期間限定ブログ
まだしつこく書いてました、近未来パロ。
葛たんと葵の出会い編。もはやプロローグ。夜襲でいう0話ですね!
書きたいシーン
・葵のスパイする理由を話すとこ
・葵が電子頭脳化していないと知って驚く葛
・あれあと一個なんだっけいちばん書きたかったやつ・・・・・・
・あっそうか、<悟り>システムとシステム使って構築した仮想波さんだ。
YES! 俺得!
西尾がめちゃくちゃ出張りました。
っていうか出会い軽すぎだろうと思いましたが、桜井機関も能力だけで選抜してるし、意外と選考理由は軽いよねーですよねーと思ってまあそんな感じ。
尻切れトンボ感がいなめない。
西尾に夢見て三千里。
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角膜接型視覚拡張装置(コンタクト)に映る様々なデータに異常はない。
――おかしいな、情報ではこの辺りのはずなんだが……。
三好葵は現実世界に重なって見える様々なステータスに気を配りながら、そっと柱の影から向こうの様子をうかがった。誰の姿も見えず、何の物音も聞こえてこない。葵がいるこの空間で、自分の呼吸音が一番うるさいくらいである。もっと静かにできないものだろうか、人間というのは。生きるだけでもこんなにうるさいなんて。
三好葵は所謂スパイである。敵陣へ潜り込んで情報を得たり、ひっそり暗躍して確証を手に入れたり、決して表には出てこない人間だ。今回の依頼も、内容としては「とある男が組織と取り引きしている証拠写真をおさえてほしい」という、浮気調査のような探偵チックなものであるが、どんな手段を使っても構わない、死体処理はこちらで行えると言葉が続くあたり、表に生きる人間とは住む世界が違うと言わざるをえない。
葵はもう一度、視界右下に映るターゲットの男の顔を確認した。
西尾拓。
彼がどんな人間なのか、葵は詳しく知らなかった。相手が提示してこなかったのだ。これがもっと入り組んだ件であれば葵も聞くが、取り引き現場を押さえるというだけであれば、さほど西尾拓自身については関係ない。難易度もさほど高そうには見えなかったのだ。かなり信頼できる情報が手に入り、今日ここに来れば簡単に彼の姿を押さえられると思われた。
ここ数日間、何の因果かトラブルに巻き込まれることが多く、その処理のほうがよっぽど骨が折れた。
――あれだけ信頼できる筋の情報なのに、ガセだったか?
葵の頭に一抹の不安がよぎった瞬間、事態は一転した。
「ぐ、あっ……!?」
突然、腹に何かがぶつかった。思わず葵が腹をおさえると、すぐさまその腕を後ろにひねりあげられ、動かせないようにされる。キリ、ときしむ腕の痛みに現実を認識する間もなく、葵は床に押しつけられた。
――何が起きた……!
相手の姿もろくに確認できない、素早い動きだった。大分暗い空間だとは言え、コンタクトによって暗視用の補正がかかっているため、普段ならば相手の姿が見えるはずだ。
視界に映るステータスをとっさに確認しても、前後に人を捕捉していない。
首を回して、背中の上にいるであろう誰かを見た。
はずだった。
そこには、誰もいなかった。
葵は驚愕で目を見開いた。今、自分は取り押さえられているのだ。そうとしか思えない。ぐっと体重をかけられ、背骨がきしむ。痛みに歯を食いしばり、葵は頭を働かせようと努めた。
――光学迷彩? いや、それにも特有の景色の歪みがあって、完全に姿をくらませられるわけではない。こんな近くにいればなおさらわかるはずだ。
姿の見えない相手。いつ殺されるかわからない状況に嫌な汗が顔を伝う。
「もういいか」
いきなり、頭上から声が降った。びくりと葵は顔をあげたが、やはりそこには誰もいない。何だ? 何が起こっている?
「た・・・・・・、葛」
ぶち、と視界がテレビ切れた時の様に真っ暗になった。はじめての事態にただ凍りつく。そして一瞬乱れた視界が戻ると、そこには男が一人、立っていた。すぐに気付く。右下に表示されている西尾拓の名前から矢印が伸びて、視界上のその男に辿り着く。
「コンタクトはその液晶上に受信したデータを表示してるだけだから、受信してる電波を押さえちゃえばいいわけだ。君が電子頭脳化してなくて助かった。あれはコンタクトにデータを送るだけでなく、視神経を直接刺激しているから、ハッキングが難しくて」
――やられた。
コンタクトをハッキングして、偽の視界とステータスを見せられていた、か。
しかしコンタクトもハッキングの危険性を理解している、かなり高度のセキュリティレベルを持っているはずだ。気付かれずハッキングするなど、超A級の技術ではないか。そんな危険な男なら、事前に教えてくれたっていいだろう。そうすれば警戒して近付いたのに。依頼人は何も言わなかった。情報がなかったのか?
西尾が目の前にしゃがみこむ。眼鏡の奥の目は、その口元に浮かぶ余裕に反して、鋭く光っていた。データではなくいざ目の前にすると、得体の知れない男という印象が強い。
「俺の相棒は優秀でね」
西尾の視線が葵の背中の上に向く。眼球だけ移動させると、さっきまで誰もいなかったその場所に、スーツ姿で無表情な男が乗り、葵を拘束していた。葵の目に気付いた男は、更に腕の力を強めた。苦痛で思わず顔が歪む。
「だが君もなかなか優秀なようだ」
西尾が笑う。目の奥に闇を宿したまま。敵にほめられても何も嬉しくない。この、圧倒的に敗北している状況で。葵が目をそらすと同時に、西尾が言葉を続けた。
「ここまでくるのはたいへんだったろう?」
その言葉に息を飲む。
「まさか、むやみやたらに抗争や対立に巻き込まれたのって……!」
数日続いたいくつものトラブル、危機的状況。
「ご名答、俺らが仕掛けた」
「嘘だろ……」
確かに違和感はあった。あまりに出来すぎている、そう感じたのだ。葵は神など信じていないが、そのような存在を信じたくなるような場面もあった。だが、葵は結局、それを現実として処理したのだ。偶然だと片付けてしまった。それを許すほどには、現実的だったのである。
「なかなかたいへんな作業だった」
西尾の顔は、言葉に反して、たいして大変ではないよと言いたげに余裕を浮かべていた。こいつらに始末されるなら、仕方ない。実力が違いすぎる。固定させられ続けている腕の感覚がなくなってきていた。
「さて」
ごり、と何かが葵の額に押しつけられた。全身が粟立つ。恐怖をそのまま物質化したような冷たさ。
おそるおそる視線をあげると、視界に黒い銃口が現れた。コンタクトが瞬時に銃を認識し、聞いてもいないのに銃の型を表示する。そんな情報よりも、どうやったら生きて帰れるか教えてくれ。
「君のことなど簡単に殺せるわけだが」
考えろ。どうやって逃げる? 腕の一本くらいくれてやる。視界上の各パラメータをチェックする。何か、ないか。この、底知れぬ西尾という男から逃げ出す何かが。
「取り引きをしようか」
おそらく西尾はためらいなく人を殺すことができ――え?
西尾が銃口を少しずらした。
「一つだけ条件を飲んでくれればこのまま君を離すし、おそらく君を送り込んできた野郎が欲しがっている情報も渡そう」
そう言って、西尾はポケットから取り出したマイクロチップをひらひらさせた。
「銃口の次は何を突きつける気だ?」
西尾は笑った。
「何、簡単なことだよ、背中にいる俺の相棒――伊波葛と組んでくれ」
「は?」
「西尾ッ!」
予想の斜め上をいく条件に、葵よりも名を出された本人、イハカズラの方が動揺したようだった。葵を拘束していた力が一気に緩む。だが銃口はまだ葵を充分傷付けられる位置にあったため、もがくことはしなかった。
「どういうことだ」
「ちょっと行く所ができてね。訳あってこいつを連れて行くことがでかないから、そうだな、俺が戻ってくるまで預かっててほしいってことだ」
「しかし……」
さっき見た無表情が嘘に思えるほど動揺した声が、頭上から聞こえてくる。それを無視して、西尾は葵を見たまま話を続けた。
「ここまで辿り着けるくらいの奴なら、相棒、預けてやってもいいかもってな」
「……そのために全部……」
何て奴だ。
全部、自分の相棒を預けていい人間を探す、テストだったていいことか。かぐや姫も真っ青な無理難題ばかりだったぞと葵は半ば呆れていた。
カズラは黙ってしまった。
「で、どうする?」
うなずくか死ぬか。
死にたがり以外には一択な、ほぼ恐喝まがいの言葉だった。
まだ死にたくは、ない。
僅かに頷いた葵を見て、西尾が銃を下ろす。一応は回避された殺意に、どっと冷や汗が出た。小さくため息をついた葵の目の前に、マイクロチップが投げ捨てられる。
「西尾」
「すまないな、葛。すぐ戻ってくるから少し待っててくれ」
西尾はマイクロチップを見つめたままで、やはりカズラを見ようとはしなかった。その目が一瞬だけ寂しげに見えたのは、気のせいだっただろうか。それを深く考える前に、背中に乗っていたカズラがずっと拘束していたその手を離したので、体の自由が戻った安堵感に葵の頭は支配された。長時間固定されていたせいで、体の何箇所か麻痺した状態だ。
カズラは葵の横に突っ立って、すたすた歩き出してしまった西尾の背中を見ていた。
「俺のサインを見逃さないように、しっかり裏世界の情報も集めておいてくれよ、お二人さん」
「・・・・・・わかっている」
無造作に投げ捨てられたマイクロチップを回収し、葵は立ち上がった。服についた汚れを軽く払い、カズラに手を差し出す。
「しばらくの間、よろしくってことで」
「・・・・・・」
予想通り、彼が手を握ることはなかった。
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