夜光に口付け Psycho Psycho Psychology 6 @近未来パロ 忍者ブログ
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負の感情に関してはいろいろ悶々とするものがあるだろうけれど、笑うとかそういう陽性の感情は最低限のものしか持っていない、というのが私の中の葛たん。
ということで、Namiさんとの会話はレッツラ葛たん。

葵は情緒教育素晴らしい感じですよね。いい人だし、優しいし、きっと感情も豊かだろうし。ちょっとたらしなのが問題だけど(笑)、よくできた人間だなと思います。

葛たんもいい子だよ!



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"Psycho Psycho Psychology " Emotion6

「壊して・・・・・・?」
「戸惑い、YES。はい、<悟り>を壊してください。ここまで侵入した貴方になら簡単なはずです」
白い世界の中では、声が響いているのかすらわからない。ただ、言葉が言葉として認識されるだけだ。
葛は依頼内容と共に、葵の存在を思い出した。
「『しかしこれは仕事で』、動揺、YES。しかし、このプログラムは壊されなければならないものです。壊してください」
"Nami Keiichi"と名乗ったプログラムは、この世界を壊せと言った。
葛は黙っていた。プログラムは言葉をつむぎ続けた。黙っている葛の心境を、おそらくかなり正確にトレースしたうえで。
「波圭一は、心理学の天才だった。彼は人間の心の関数(function)を発見した。人間の心は、彼にとって方程式でしかなくなった」
しかし彼はプログラムだ、だからと言って、何かを思うわけではない。生きていた波の心理をなぞっているだけの、仮想装置だ。そこに真理などは存在しない。葛は自分にそう言い聞かせた。彼が少しだけ寂しそうに笑った。あれも、所詮はプログラム。
だが、自分がそれと違うと、この<悟り>というプログラムが存在している以上、心の方程式がこうして存在している以上、自分が彼と同じでないと、外部からのインプットを決まりきったプログラムに乗せて動くだけのものでないと、どうして言い切れる。
「その方程式は、自分にも適応される」
「・・・・・・!」
「――YES。彼は自分の心理でさえ、悟ることができました。何故自分がこうなってしまったか、こうなった自分が何を思っているのか、わかってしまった。彼も貴方と同じように思ったのです、『心なんてただのプログラムでないのか?』と」
意識が揺れた。
「『感情なんて存在しないのではないか?』」
この恐怖も、動揺も、みんな、彼にはわかっているのだろうか。
そう思って葛は彼を見つめたが、彼は葛の心を読み上げてYESということはしなかった。それでもきっとわかっているのだろう。何せここは<悟り>の世界だ。
「『心なんてどこにあるんだ?』」
――どこにあるんだ?
「波圭一は、恐れた。その疑問に行き着いてしまった自分を恐れた。そうして、その疑問を否定したかった。だから、全ての知識を、波圭一の全ての才能をつぎ込んで、この心理解析システムを作り上げた。そして私、"Nami Keiichi"を作り上げた。彼はここに来て、私たちを作り上げてからずっと、ここを離れるまで、私たちと対話を続けていた」
ディスプレイと、卓上型マイク。
自分との、自分の心理との、対話。
何もしていないのに、汗が流れた。息が荒かった。と、ネット上であるにも関わらず葛はそう感じた。また後ろに下がった。彼から距離をとった。
「そして彼は見つけようとした。私たちプログラムと、人間である自分の間にある何かを」
それは――。
「『見つかったのか?』、淡い期待、YES」
彼はそれだけ言い、読み取った葛の疑問に、答えることはしなかった。
波圭一は死ぬ2年前に再び世間に現れた。
だが彼は、死ぬまでの2年間、何も語らなかった。何の研究もしなかった。何の文章も残さなかった。何の言葉も語らなかった。彼の心のうちには、どのような答えがあったのだろう。ここでプログラムと対話し続けた間に得た、答えが。
そして彼は、目の前にいる"Nami Keiichi"は波が得た答えを知っているのだろうか?
「<悟り>は波圭一のためのプログラムです」
彼は答えを言わない。
「これを外に持ち出して、わざわざ貴方が抱いたような哲学的疑問を、『心とは何であるか?』なんて疑問を、世界に抱かせなくてもよいでしょう。そうは、思いませんか?」
葵は。
これを壊してしまったら、葵は何と言うだろう。
いや、葵は、これを壊すだろうか?
「迷い、YES。最終的には貴方の判断です。所詮、私のつむぐ言葉は全てプログラムがつむいだ意味のないもの。全ての言葉をどうするかは、貴方次第です」

結局、本棚の本も全て確認し、家の中をくまなく探したが、他に<悟り>の存在を示すような物は見つからなかった。まあ、葛が調査してくれているあのコンピュータに<悟り>があれば万事解決なのだが。
そろそろ戻ることにしようか。
ちょっと腹が減ったなぁ、と葵は依頼にも世界にも全く関係のない、ただの私事を思った。

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