「植木に口付け」・夜襲期間限定ブログ
終わりましたー! これで最後です。
ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございました。
前半部に比べて、暴走速度がこれまたひどいことになっていますが、少しでも楽しんでいただければそれでいいです、私は。本当に。ええ。本当に、なんか、すいませんでした。でもすごく楽しかったです。久しぶりに、一気に文章を書きました。大学休んで、書きました。(一回死んでくれば?)
最初は、葛たんとNamiさんの感情に関する問答が繰り返される予定だったのですが、そういう感情論とか自我論とか、そういうのは攻殻の世界でやることで、一応夜襲の二次である(えっ)これでやることではないなと思って、ちょっと路線を変えました。少し人情ものに寄った感じ。
夜襲は、人間のドラマを描いているところがあると思います。そこが好き。
近未来パロについては、考えるのがすごく楽しくて、前、設定時にすごく語ったように、なんかもう2クールアニメ作りたいくらいネタがぽこぽこ浮かんでいるのですが、これを書いて少しすっきりしました。
でもお兄様書きたいのよ、なんてそんなBAKAな! あと雪菜たん。
いやはや本来の夜襲二次SSが、これで書ける! はず! あと庭師パロ進めたい!
心理学は、真理学ではありません。
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"Psycho Psycho Psychology" Emotion7
彼は微笑んでいた。
葛にはそのうちにどのような感情が、いや心理パターンが表れているのかわからない。
彼と<悟り>を壊すことが、正しいのかわからない。
「どうしますか?」
「・・・・・・」
「どうしますか?」
彼は同じ言葉を二度、繰り返した。それは、できの悪いプログラムのようだった。融通のきかない、決められた命令を待つばかりのプログラムのような。
心理解析プログラム。
波圭一が最後にたどり着いたもの。
心の方程式。
葛は無表情を貼り付け、手をあげ、そこにとあるウィンドウを出した。それを見た波圭一が、僅かに首をかしげ、髪を揺らす。ウィンドウの中のあるコマンドを呼び出し、指を触れる。実行。警告音と共に、OKとCancelの文字。葛は一瞬躊躇ったあと、OKを選んだ。
ありがとうと彼は言った。
即効性のあるデータ破壊性のウィルスだ。クラッキング用にプログラムを常備している。本棚や机の輪郭が歪んだ。白い世界が崩れ始めた。同時に、"Nami Keiichi"の姿にもノイズが混じるようになる。彼はノイズが混じって乱れる自分の手を眺め、少し、不思議そうにしていた。その様子があまりに人間らしいので葛は思わず目を背けた。
「YES。嗚呼、『安らかに眠れ』」
唐突に、彼は雑音交じりの声を発した。そらした目を再び彼へ戻す。
「波圭一ならば、今の私にそう言います」
葛は心理解析プログラム<悟り>の外に出た。
ウィルスにやられた<悟り>は既に球状を保っておらず、ばらばらと崩れ続けていた。膨大な行数のプログラムだ、いくら崩れても終わらない。その様子を葛はずっと見ていた。
「葛! おい、葛!」
目を覚ますと、葵ががくがくと葛の体を揺さぶっていた。
「や、やめろ葵・・・・・・」
「あっ気がついたか! ああもう驚いたよ! 戻ってきたら倒れてるんだもんな!」
そうか、身体コントロールを放棄したためにバランスを崩して倒れたのか。しかし、大げさではないだろうか。葵は今にも泣き出しそうだった。
「<悟り>は・・・・・・」
葛は顔に手をやり、まだ少し現実世界になじめずくらくらする意識を落ち着かせながら、言った。葵の表情は変わらない。仕事がどうでも、ただ心配だという顔だ。
「壊れていた」
僅かに胸がうずいた。
「あったことはあったんだな」
「ああ」
「ふうん・・・・・・心理解析システムねえ・・・・・・壊れてたんなら仕方ないな。波圭一が死んで、もう30年以上経っているわけだし。でも、そんなコンピュータから無事戻ってきてよかったよ! このまま葛が目覚まさなかったらどうしようかと・・・・・・」
ぎゅうと葛の体を抱きしめる葵が暑苦しくてたまらなかった。やめろ、と無理やりはがして、なるべく距離をとる。葵はしばらく抱きついていたが、ふいに飽きたのか葛を解放した。ようやく葛は立ち上がることができ、コンピュータと自分をつなぐコードをはずした。小さくまとめてまたスーツの内ポケットにしまう。
「でも残念だなー。もし使えたら、俺、葛が今何思ってるか解析してもらおうと思ったのに」
「あまり気分がよいものではない」
え? と葵がこっちを見たので、葛はいつもと変わらぬ口調で何でもないと否定した。
「俺が何を考えているか、わからないか」
「わからないよ、お前、全然笑わないし・・・・・・あ、ごめん。怒った?」
「別に」
仕事が失敗に終わったにも関わらず、葵はへらへらと笑っていた。彼に怒っても何一ついいことはない気がした。こちらの体力を消耗するだけだろう。
「そっちは何かあったのか」
葛が尋ねると、葵は大きく首を横に振って否定した。想定の範囲内だった。これで、心理解析プログラム<悟り>は、永遠にこの世界から消えた。波圭一という高みがたどり着いた末の答えを知る、波圭一自身も、<悟り>も、最後は何も語らず消えた。
「壊れてたって言って、納得してくれるかな・・・・・・」
「仕方ないだろう」
葵が歩き出したので、葛も後に続いた。現実世界は相変わらず、嫌になる気温と湿気で満ちていた。あの景色に似た書斎を通り過ぎ、波圭一がいた日本家屋を後にする。と、ぐぅと奇妙な音がして葛は僅かにうつむけていた顔をあげた。葵が情けない顔をしてこちらを見ていた。
「なあ葛、俺が今、何を思っているかわかるか?」
「・・・・・・『腹が減った』」
あれは腹の鳴る音だろう。
「すげぇ! 葛も才能あんじゃないの?」
こいつは、馬鹿なのだろうか。呆れてため息をつくと、 こう暑くちゃ、そうめんでも食べたい気分だ、と葵は言った。
葛はとぼけたことを言う葵に、ほんの僅か、口角をあげた。
蝉が鳴いていた。
"Psycho Psycho Psychology" END
Thank you for your reading and your emotions!
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