「植木に口付け」・夜襲期間限定ブログ
皆様が「お兄様は襲い受け!」だの「跨り受け!」だの騒いでる中で、あえて受けっぽいお兄様を書いてしまった。
この後勲に惚れた甘粕を嘲笑うために、跨り受けになればいいと思います、お兄様。
お兄様大好きです、お兄様。
甘粕に補正がばんばんかかってますが、ご愛嬌ですね!
何このオリキャラみたいなの!
※ 以下、俺得な北神伝綺の甘粕×夜襲の勲お兄様 短文です。
甘粕に茶館帰りのお兄様を襲ってもらいました。
何でお兄様一人で歩いてるの、とか野暮なことは聞いちゃ駄目!
自己満足。
以上のことを踏まえたうえで、どうぞ。
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"dis-communication"
世界を壊すのに邪魔なのは理想。
世界を作るのに邪魔なのは思想。
他人の理想をぶち壊すほど気持ちのいいものはないし、他人の思想を全否定するほど愉快なものはない。そう考えながら甘粕はとある建物へ到る道を歩いていた。駅からかれこれ二、三十分歩いてきたが、全て裏道である。表の道を歩くのは随分前にやめてしまった。元々自分の性には合わないのだ。裏でひそひそ誰かに耳打ちしているほうが、よっぽど楽しい。自分は人殺しなのだし、とこっそり自嘲し、コートの襟を立てる。帽子を深く被る。なるべく顔が見えないように歩く。僅かに歩調を速める。両手をポケットにつっこむ。誰か、来る。向こうから誰か歩いてくる。笑いたくなるのを我慢する。距離が近づく。それでも歩く。あと、少し。すれ違う。
終わらせてやる。
甘粕は彼とすれ違ったその瞬間に、ポケットに忍ばせていた拳銃をつかんでいきおいよく振り向いた。
そのまま人差し指に力を入れて、弾き金を引いてしまうつもりだった。
「・・・・・・おや」
それができなかったのは、振り向いた瞬間、喉元に光るものがあったからだ。建物と建物の間から僅かに差し込む日光を反射して、鈍くしかし冷たく光るものが。
それは日本刀の切っ先であった。
「気付かれていないと思っていましたが」
甘粕は彼の眉間に拳銃を、軍服姿の彼は甘粕の喉元に腰にさしていた日本刀を、それぞれ突きつけていた。甘粕がちょいと指を動かせば彼を殺せるかもしれない。が、その弾が彼の優秀な脳みその詰まる頭を貫通する前に、彼は自分に致命傷を負わせることができるだろう。少し前に出るだけでいいのだ。どちらかと言えば、こちらの方が不利なのかもしれない。しかし彼は、あえて日本刀を突きつけたまま動かないで、綺麗な微笑を浮かべていた。同じような加虐趣味的微笑を、甘粕も貼り付ける。
「もう少しで高千穂勲大尉を殺すことが出来たんですがねぇ」
少し肩を竦めて見せると、ぴくりと日本刀の先が動いた。
「ああ、元大尉の間違いでしたね」
「こちらも、気付かれていないと思っていましたが」
軍服の男――高千穂勲は眉一つ動かさず、嫌味なほど優秀な微笑でそう返した。甘粕は黙って頷いたが、心の中では盛大に舌打ちをしていた。今ならこの男を殺せると思っていたのに。向こうから歩いてきた高千穂勲をこの目で捉えた時は、この男の死に様が残酷に鮮明に、脳内で再生されたというのに。
この男の頭のうちの壮大な思想を、打ち抜いてやれると思ったのに。
楽しみがつぶされ、甘粕は落胆した。
「仕方ありませんね、失敗です」
甘粕は拳銃をくるりと弾き金を中心に回転させると、グリップを高千穂に向けた。銃口は自分に向いている。殺傷能力のある銃弾が、その暗い穴の向こうに構えている。その穴が、自分の瞳のようで、甘粕は笑いたくなった。
こちらが撃つ気がなくなったことを確認して、高千穂勲も日本刀をしまう。彼はずっと、微笑んでいた。
「しかし、そんな余所行きの服を着て、どちらまで?」
もちろん、甘粕には高千穂の行っていた場所などとうに分かっている。茶館だ。そこで、彼は独立運動の有力者たちと会った。何を話したのかという情報は、有力者たちの中に紛れ込ませておいた、甘粕の協力者が無線で教えてくれた。協力してもらったのだ。少し弱みをちらつかせて精神的な揺さぶりをかけたが、自主的に彼は手伝ってくれると言ったのだ。強制なんて下品なことはしない。汚いことは、するけれど。
高千穂勲は端整な顔についた瞳をまっすぐ甘粕へ向けて、野暮用ですと答えた。彼の顔は指導者の顔だ。誰かを動かす顔だ。まともなふりをしながら、常に妖艶であり続ける。
「野暮用にしては、大演説のようでしたが?」
「・・・・・・戯言だと聞き流していただければ」
「いけませんねぇ、戯言にしては、壮大すぎる」
私の理想を邪魔するほどね、と甘粕はつぶやいて一歩足を踏み出した。タン、と軽快な音がする。高千穂勲が日本刀に手をかけたのを自分の体を押し付けて防ぎ、そのまま壁まで押した。それでも高千穂勲は、微笑んでいた。心底、恐ろしい男だと思う。自分の下についていれば、どんなによかったか。
まだ片手に持っていた拳銃のグリップで、その首筋から鎖骨にかけてをゆっくり撫でた。一瞬はねた肩の動きに、少し、興奮する。
「あまり調子に乗ってはいけませんよ」
まっすぐすぎる瞳が、甘粕を射抜いた。この瞳は、苦手だ。自分の理想を信じて、信じて、信じぬいた、透明度の高い瞳だ。自分の瞳は濁っているに違いなかった。嗚呼、この瞳に屈辱を。この男に、屈辱を。
「どうしてあなたは、私の同志でないんでしょうねぇ。残念でたまらない」
高千穂勲は何も言わなかった。というより、甘粕がその唇を塞いで、何も言わせなかったのだが。鎖骨に拳銃のグリップをぴたりと押し当てたまま、甘粕は高千穂勲の口内を犯した。
嗚呼、この男の瞳も、思想も、全てぐちゃぐちゃに壊してしまえればいいのに。
「甘粕大尉」
唇を離すと、高千穂勲は一見優しげな、この場にそぐわない笑みを浮かべなおした。甘粕の口元が引きつる。少しくらいは、かわいいところを見せて欲しいものだ。
「死んでいただけますか?」
あまりに優秀な微笑を浮かべ、彼は絶対零度の声音でそう言い放った。
甘粕は背筋に冷たいものを感じ、自分の中に生じた感情――それはおそらく恐怖とか、畏怖とか、そういうものなのだろう。気を抜けば跪いてしまいそうな ――を全力で無視するために彼から離れた。拳銃をポケットにしまう。
「私にはあなたと同じく、戯言ですまない理想があるのでね」
そのために、あなたをぶち壊したいのだけど。
今日は、諦めるとしよう。
彼の瞳は、おそろしいことに、異常なことに、澄んでいた。
「まだ、死にたくありませんね」
「そうですか、ならば、離れなさい」
唐突に突きつけられた命令形に、甘粕は従ってしまった。自分もまだまだだなと痛感する。この体たらくじゃあ、自分の理想を語るなどおこがましいことはできない。笑ってしまう。
高千穂勲はよくできた生徒に向けるように、上から見下ろした、けれど綺麗な微笑を貼り付け、甘粕に背を向けた。
引き分けだ、引き分け。
途中、自分が有利だった。負けではない。まだ、負けていない。
甘粕のまっすぐのびたその背をしばらく見送った後、くると体の向きを変え、帽子をとって後ろに撫で付けた髪をかきあげた。
「好きになってしまいそうですよ」
どうしても壊したくなるほどに。
dis-communication
→双方が罵倒や中傷・批判のメッセージを相手へ投げかけ、DISり合うことで親睦が深まってゆくというコミュニケーション方法。
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