「植木に口付け」・夜襲期間限定ブログ
ああ、これ、私、力があったら漫画で描きたかったなぁ・・・・・・。
という、葵+葛SSというか葛たんが病んでしまったというか、葛たんかわいそうだよねというか、結局葛たん壊れちまったよというSS。
前半の葛視点がもうスランプにスランプでどうしようかと思いました。
気付いたんですけど、葛の能力、テレポーテーションって、逃げるしかできないですよね? しかも、基本的に一人で。それか、いきなりそばに現れてだまし討ちもできますが、それって、軍人の教えを徹底的に叩き込まれた葛とま逆の精神の行いなのではないだろうか。まあ、「とりあえず勝て」みたいな軍人の教えもあるだろうけど、雰囲気、そういうんじゃなくて、どちらかというと武士道とか、仁義とか大切にしそうな家のような気がする。
能力があることで、ずっと言われてきたであろう軍人の道を絶たれるどころか、その能力自体が叩き込まれた生き方とまったく反対の性質だった、ということに気付いたら葛たんさすがに精神やべぇよなぁ、と思って。葛たんってすぐ自分責めそう。ああ、自分が悪いんだなって結論にいたりそう。
まぁ、そういう妄想のお話ですわ。すわすわ。
ぶっ壊れた人大好きなんで!
最低ですが!
愛です!
ぶっかけるのも大好きなんで!
最低ですね!
愛です!
妄想過多で暗くてすいません。
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"development distance"
どれだけ遠くに行くことができても 隣には誰もいない。
道はどこにもない。
「とりあえず言われたブツは手に入れたし、これで任務完了だな!」
「喋る暇があったら走れ」
葛が叫ぶと、葵はハイハイと明らかに疎んじている返事をし、走るスピードを上げた。それに合わせて葛もスピードを速めた。念のため、作業着の胸ポケットにしまったフィルムを確認する。それは確かにそこにあった。
桜井からの任務は、国民党の重要機密が写っているフィルムを国民党が一時的に根城にしている古宿から奪うことであった。棗の念入りな透視によって警備が手薄な場所を通るルートは確保できたが、それでもかなりの人数が滞在しているため見つかる危険は大いにあった。
それでもやはり――見つかるのは心臓に悪いな。
フィルムを保管している倉庫まで行くのに誰とも会わなかった、そのこと自体幸運すぎると言ってよかったのだろう。フィルムを手に入れ、帰りを急ぐ途中で国民党に見つかり、追われる身となった。
目の前の角から、銃を持った国民党の人間が飛び出してくる。
「まずいな・・・・・・出口まであとどれくらいだ?」
葵が舌打ち交じりにつぶやくと、雪菜の言葉が頭の中に直接響いた。
「あと、250m」
「ならいけるか?」
ちらと後ろを走る葛を見て、彼は尋ねた。250m――微妙なところだが、仕方ないだろう。小さく頷くと、葵はにやりと楽しそうに笑い、発砲してきた国民軍の銃弾を横に思い切り飛ばした。同時にカチリと腕時計のスイッチを入れる。一度騒ぎを起こしてしまうと、敵は次から次へと現れる。銃弾をかわし、殺さない程度に風を使って目の前を塞ぐ人間を倒していく。葛は葵が道を開けていく様を後ろから眺めつつ、葵が取りこぼした人間を体術で気絶させた。時たま僅かな余裕が生まれたときに聞こえてくる雪菜のカウントが、精神をとがらせて行く。葵は軽やかな足取り――このような表現をこの場で使うのは正しくないのかもしれない――で先へ順調に進んで行った。この分なら彼の能力が切れる前に出口へたどり着くだろう。
ふと、上海に来たばかりの頃、任務を終えた彼が「脱出ゲームみたいだったな」と感想を漏らしたのを思い出した。その時の笑顔が妙に表面的で、葛は少しゾッとしたのだった。笑顔をはがしたその下に、何が隠れているのか怖かった。下手すれば命すら危うい任務をゲームと切り捨ててしまう彼は、ゲームに負けたとわかればあっさりと、いたってあっさりと負けを認めてしまうのではないだろうか。
葛はもう一度フィルムを確かめ、ぎりと歯を食いしばった。
「お、あと少し!」
相変わらず明るい声で彼は告げる。見ると、出口はすぐそこだった。最後の一人を倒して、彼が扉を開いた。ちょうど、雪菜のカウントが0になる。
しかし一旦逃げられたとはいえ、外にも国民軍は数多くいる。この地域は国民軍関連の人間が数多く集まっている地域なのだ。自分たちの存在が彼らに知れ渡るのも時間の問題である。一刻も早く、ここから離れなければならない。葛はためらいなく葵の手をとると、打ち合わせ通りに近くのビルの屋上に視点を固定した。小さく息を吸う。この感覚にはどうしても慣れない。息苦しいのは不慣れなためだけではないと、わかっていた。
一回目。
ビルの屋上に移り、一段高くなっているビルの端に足をかけて、煌びやかな上海の街を見下ろす。国民軍らしき武装した集団があわただしく走っているのが見えた。このあたりで一番高いのはこの場所である。後は下に降りなければならない。雪菜が棗の目を使って、人の密度の薄いところを伝えてくる。
二回目。
うまく人のいないところに移動することができ、葛は一息ついた。すぐに次の移動にとりかかる。こんな目立つところにいては国民軍に見つかる。次はとにかく遠いところへ移動する。
三回目。
後ろで何か声がした気がした。
周りの景色が消え、一瞬で違う場所に出る。見える場所でともかく遠いところを選んだため、ここが先ほどいた場所からどれくらい離れているのかわからない。葛は胸ポケットからフィルムを取り出し、乱れた息を整えながら振り向いた。葵の姿を探すために。
葵の姿はそこになかった。
「まさかあそこでずっこけるとは思わなかったなー」
葵は汚れた顔をごしごしと手でこすりながら四君子堂写真館のドアを開けた。三回目の移動時、物につまずいて葛を離してしまった葵は、葛に置いていかれたのである。といっても、自分が悪い。自分が注意しなかったのがいけなかった。目的のフィルムを持っていたから油断したのだろう。国民軍に見つかりかけながらも能力は既に時間切れ、せこせこと逃げ回ってようやく帰ってこれた。フィルムを桜井氏に渡すのは明日の朝のはずだから、葛も帰っているはずである。フィルムさえあれば、何も問題ない。
「ごめん葛。お前フィルム大丈夫・・・・・・か・・・・・・」
そこで葵は違和感に気付いた。まず、明かりがついていない。
もう寝てしまったのだろうか。写真館側のスペースを抜け、居住スペースの方へ向かう。真っ暗なまま居間に入ると、葵はその場に立ち尽くした。暗闇の中、ぼんやりと見えるのは、椅子に腰掛けうつむいたままの葛の姿だった。はじめ、自分を待って眠ってしまったのだろうかと思った。だが近づくにつれ、それは間違っていたのだとわかった。微動だにしない。そして彼は――起きていた。
「葛?」
机の上にフィルムらしきものが載っている。窓から差し込む月明かりでぼんやり覗き込むそれは、呪われたアイテムにしか見えなかった。
葵の声に、葛が勢いよく顔を上げる。彼は虚ろな表情で、葵をただ見つめていた。本当に見えているのか、と言ってしまいたくなるような表情だった。
「葵っ・・・・・・!」
突然、葛は立ち上がった。椅子を蹴飛ばすほどの勢いであった。実際、椅子は倒れて音をたてた。葛はうつむき、両手で顔を覆った。指の隙間から震える声が漏れ聞こえてくる。
「無事だったか・・・・・・」
「本当にごめんな、葛。ちょっと転んじゃって、お前の手、離しちまった」
そんなに心配してくれるとはなぁ、と葵は努めて明るい声を発した。夜の闇に侵食されたこの部屋で、それは虚しく響くばかりであった。それでも葵は、軽い調子で続けた。そうしなければこの部屋の空気につぶされてしまいそうだった。ガラスにひびが入っているように、良く見れば歪んだ何か。
「でもまあ、フィルムは手に入ったし、よかったよかった。後は明日、これを渡せばいいんだ。・・・・・・大丈夫だって。無事、逃げられたんだし」
葵は彼の肩を叩くため、ふっと腕を回し、そして気付いた。
彼は震えていた。
「嗚呼、俺は一人で逃げたんだ」
触れてしまえば、割れてしまいそうなガラスが。
俺は離れていくことしかできないんだ。
彼はそう言って乾いた笑いを、口からこぼした。
「俺は結局、一人で逃げることしかできない。逃げて――どこへ行くつもりなんだ? どこにも、行ける場所などないというのに。こんな卑怯な人間に、間違った人間に、行く場所などないというのに」
葛は自分の能力を、毛嫌いしている。それは上海に来る前から明らかなことだった。瞬間移動ができるなんて便利だし、何が不満なのだろうと常々疑問だった。それは単なる我侭なのではないかと、心の底でほんの少し、思っていた。
どこが我侭だ。
我侭が、人をここまで追い詰めるものだろうか?
葛は手を顔から僅かに離した。
「何だ? 一体俺は何を間違えた? どうしてこうなったんだ? どこが悪かったんだ? どうやったら――元に戻るんだ? 俺はどうすればいいんだ?」
鋭い疑問符が、ただ、葛自身を突き刺していた。その双眸からは涙といえない涙が、流れていた。ただの水のように、つらつら葛の瞳から流れ出るだけである。何の感情もない。葛は虚ろな表情のままだ。
青いには、何が彼を追い詰めているのかわからない。ただなんとなくわかるのは、葛が自分を置いていってしまったことで、どうしようもないほどの罪悪感を感じているということ。それが、葛の何かを壊してしまったこと。
なら、悪いのは自分ではないか。
何故、彼はこんなにも自分を責めている?
少しずつ乱れ始めた彼の呼吸を、さえぎるように言葉をつむぐ。
「大丈夫だから」
何もわかっていない自分が、言うことではないと思うのだけど。
それでも、言わずにいられなかった。
突然割れたガラスの欠片を拾うことしか自分にはできない。
ぐらりと彼の体が揺れる。彼の体から力が抜ける。鍛えられているはずのその体は、彼の精神を支えるにはあまりに頼りなく、葵は彼から見えないよう、眉をひそめた。彼を立たせているのが辛かったので、葵は彼と一緒にへたりこんだ。彼の頭を抱きしめて、額を肩に当てる。彼の顔が見れなかった。虚構を語る言葉ならばまだどうにかなる気がして、葵は大丈夫だからと数度つぶやいた。彼の呼吸のリズムが心地よい。
彼はしばらく震えてじっとしていたが、そのうちおとなしくなった。眠ったらしい。葵はそれでも、葛を抱きしめたまま動くことができなかった。今になって、あの時離れた手の感触を思い出した。
「わかったよ、もう離さないから」
葵は彼に聞こえないよう、自分にだけ聞こえるよう、つぶやいた。
彼が行ってしまわぬ様、見えない言葉を結びつける。
とりあえずうpって、またあとがきとか補足とか後日考えます。
とりあえず私、寝るわね!
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